耐震基準はあくまでも目安。新耐震でも倒壊、旧耐震でも頑丈な家もある

耐震基準は大きく「旧耐震」「新耐震」に分かれ、木造住宅の場合には「2000年基準」も大きく耐震性を向上させる改正がなされました。

例えば、新耐震は「震度7クラスの大規模地震がきても建物が倒壊するかもしれないが、建物内にいる人の安全(命)を守る」ということを目標にします。

しかし、この基準で建てられた建物であれば必ず安全性が確保されるかというとそうではなく、壊滅する可能性が低いというに留まります。事実、耐震基準が強化された住宅は地震の被害も少ないことは実証されていますが、少なからず大破している家もあるのもまた事実です。

逆に、旧耐震基準の住宅も倒壊する確率が(新耐震に比べて)高いというだけであって、震度6強~7のような大きな地震がきて必ず崩壊するわけでもありません。

さらに、当然ですが基準は実際に建築する際に遵守されて初めて意味を持ちます。設計図では新耐震であっても、実際には施工不良や施工ミス、手抜き工事などによって実際の家の強度が弱い場合も考えられます。

逆に、古い建物であっても頑丈に作られている場合もあり、旧耐震時代(1981年以前)に建てられた物件であっても新耐震基準を満たすものもあります。

耐震基準にこだわらず、実際に建物を診断し、必要に応じて耐震補強する

大切なのは、建築確認申請日や、竣工年月日(建築年月日)で耐震基準の適用時期を判断するだけに留まらず、実際に自宅の耐震診断を実施することです。

その診断結果によって不具合がみつかった場合には適切な耐震補強をすることで、名実ともに安心安全な住宅を手に入れることができるのです。

特に、2000年ほどまでは建築確認だけ実施し、竣工後の完了検査を実施しない住宅が半数を超えていました(検査済証の交付率は半分未満でした)。

つまり、耐震基準を満たした住宅を設計して建築確認を通過しても、その後設計通りに建てられなかったものも少なからず存在するということです。ひどいものだと、建築確認を受けないまま建築された建物もあります。

物件によっては、耐震基準という「建前」と、実際の住宅の状況という「本音」の部分に乖離がみられる可能性が少なからずあります。不安が残る場合には、できるだけインスペクションや耐震診断を受けましょう。

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耐震等級は3段階、新耐震基準レベルは等級1。求めすぎずバランスよく

耐震性能は、「耐震等級」という指標で大きく3段階に分かれます。数字が大きくなるほど耐震性が高まります。

具体的には、等級1が建築基準法が求める水準(新耐震基準)とされ、等級2は「等級1の1.25倍」の強度、等級3は「等級1の1.5倍」の地震に耐えられるとされています。

耐震等級耐震性能の程度主な建物
等級1震度5程度の中規模地震で建物が損傷せず、
震度6強~7クラスの地震でも倒壊・崩壊しない
一般の住宅
等級2等級1で耐え得る地震の「1.25倍」の力に対して倒壊・崩壊しない病院や学校など
等級3等級1で耐え得る地震の「1.5倍」の力に対して倒壊・崩壊しない防災拠点となる建物
(消防署や警察署など)

例えば、認定長期優良住宅では、耐震等級2以上を求められます。これは主に病院などに求められる等級以上を求めていることで、いかに長期優良住宅が長い目でみて安心な住宅を志向しているかわかりますね。

尚、これは2000年にスタートした「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」において、構造耐力や省エネルギー性、遮音性などの住宅の性能をわかりやすく表示する「住宅性能表示制度」による分類です(制度適用は任意ですので、表示していない場合もあります)。

等級が高ければいいわけではない。「建物内の揺れ」「居住性」「コスト」も検討

耐震等級が高いと安全という印象がありますが、必ずしもそうではありません。

耐震性を高めるためには筋交いや柱などの量が多くなります。例えば等級2の住宅は、等級1の1.25倍の強度であっても、それを実現するためには1.25倍”以上”の筋交いなどの材料が必要になります。それだけ重く堅い家になるのです。

そうすると、実際に地震が起これば「建物自体は壊れにくくなる」のですが、振動が直接伝わり「建物内はよく揺れる」ようになります。家自体は頑丈になり倒壊しにくくなりますが、建物内にいる人が中の家具などによって大けがをする可能性も高まってしまうのです。

さらに、耐震壁の量や柱の数が増えたり、間口を狭める必要が出てくる場合もあり、使いにくい居住性に優れない部屋になることもあります。住環境の何を優先するかは人それぞれですが、あまりにも耐震等級にこだわるのも考えものでしょう。

等級をあげることは、建築コストも高まることになります。それらをバランスよく考え、建築士などの専門家とともにあなたにとって最適な耐震設計をしてくださいね。

木造2階戸建て住宅は、建築確認の審査も構造計算も必要ない?!

戸建て住宅を建てる、もしくは購入される場合、多くの方が2階建て以下を選ばれています。

以下すべて満たす建物を「4号建築物」「4号建物」などと呼びます(建築基準法6条1項4号:ただし在来工法に限っており、ツーバイフォー工法やプレハブ工法は除かれます)。ほとんどの2階建て木造戸建て住宅が該当することがわかります。

  • 特殊建築物以外の建物、または100㎡以下の特殊建築物
  • 木造で2階建て以下かつ延床面積500㎡以下かつ高さ13m以下かつ軒の高さ9m以下
  • 木造の建物、または木造以外で1階建て以下かつ延床面積200㎡以下
この4号建築物(1階または2階建て木造住宅)の設計や審査においては、建築基準法上は特例が認められています。

事実上、行政(特定行政庁・建築主事)による構造計算の審査も、そもそも構造計算も必要ないのです。構造計算ではなく「簡易計算」による安全性検討で済ますことができ、さらにそれらの確認書類さえ行政がチェックしません。

「4号特例」で建築確認審査が免除!安全性の検討の義務はあるがチェックはない

4号建築物の場合、建築士が設計すれば構造計算書や壁量計算書、構造関係の図面などを確認申請に添付しなくてよく、事実上、建築確認審査を省略することができます(建築基準法第6の4条3号:「4号特例」と呼ばれます)。

つまり木造2階建ての場合、耐震基準に適合しているかどうかなど、構造に関する行政のチェックが入らず誰にも分からないのです。

これは、耐震基準を満たさなくても構わないということではなく、木造2階建ても定められた基準はもちろん守らなければなりません。建築確認審査を簡略化するため、安全性を確認できる構造計算書などの「書面の提出」自体は免除されるという特例です。

しかしこれを逆手にとって、壁量計算などを行わず強度が不足する設計を行ったとしても、(設計者や施工業者以外)確認できずにそのまま家が建ってしまうのです。

国土交通省はこの「4号特例」を繰り返し見直しています。ただ、例えば2008年に「四号建築物に係る確認・検査の特例の見直しについて」として意見表明していますが、未だその実施(廃止)に至っていません。

そもそも「構造計算」が義務付けられていない!最低限の「簡易計算」だけ

建物の安全性を検討する義務はありますが、「審査の簡略化」のために、構造計算書などを添付すること自体は免除、実際には外部の目でチェックされないのが4号特例でした。

さらに、4号建築物には簡略化されているものがります。構造計算方法です。

鉄骨造や鉄筋コンクリート造などの建物であれば、「許容応力度等計算」などのしっかりした構造計算方法に則って安全性を検討します。しかし4号建築物の場合、簡易計算が認められているのです(建築基準法第20条1項4号)。

構造計算には「許容応力度等計算」「限界耐力計算」「時刻歴応答解析」などいくつかありますが、ここでいう簡易計算はこれらの構造計算ではありません。

壁量や耐力壁が十分確保されているか(壁量計算)、耐力壁などが偏りなく配置されているか(4分割法)、柱頭・柱脚の接合金物などが適切に選択されているか(N値計算)などの簡易なものに留まり、例えば床や屋根、梁の強度などは十分考慮されません。

木造住宅であっても多くの建築士は何重にも安全性を考慮した適切な設計(万が一の場合に備えた緻密な構造計算)を行っているようです。しかしながら不安が残る場合には耐震診断などを実施しましょう。

繰返しに対応する「耐震」へ。振動を吸収する「制震」・逃がす「免震」も

新耐震基準などで想定されるのは、「数百年に一度」程度といわれる震度7クラスの大規模地震への対応を想定しています。

しかし、2016年の熊本地震で史上初めて、同一地点で2度も震度7の地震が起こった通り、たった一度の大規模地震では対応できない時代が来るのかもしれません。また、本震の後には余震が何度も続きます。

大手ハウスメーカーなどを筆頭に、現在建築基準法を大きく上回る耐震性を実現する安心な住宅の開発がなされています。

その一つの方針が、一度のみならず「繰り返し起こる地震に耐えられる住宅」で、超長期的に安心で堅牢な住宅を作ろうという考えに根差しています。

「制震(制振)」は振動を吸収して、中にいる人に揺れを伝わりづらくする

「耐震」構造は建物自体を強く頑丈にして、地震の揺れを住宅がすべて受け止めることを前提とした構造といえます。日本の戸建て住宅や古いビルや規模の大きくないマンションはほとんどこの耐震性を重視して作られています。

地震で発生する力を建物自体で受け止めますので住宅自体は大きく揺れます。建物を頑丈にして、揺れてもいいけれど壊れないようにしようという考え方だからです。ですので、中にいる人や家具などにその振動は伝わります。

一方で「制震」構造は、エネルギーを吸収するダンパー(制振装置)を壁や天井部分など建物内部に取り付け、揺れを吸収するものです。

イメージとして、揺れと反対方向に建物を揺らすことで、中にいる人や家具の揺れを抑えようとするものです。一般的に、耐震構造より建物のひび割れなどの損傷を抑えることが期待されます。

主に高層マンションで用いられています。縦に長いマンションは上層階にいる人は大きな揺れを感じます。それを制振することで、建物のみならず中の人も守ろうとするのですね。

「免震」は揺れを逃がして建物への振動を減らす。家を宙に浮かす「エアー断震」も

耐震は揺れを吸収するものでしたが、そもそも揺れを建物に伝えない(建物の外に逃がす)考え方が「免震」です。ビルやマンションだけでなく、戸建て住宅にも採用が広まっています。

これは、基礎と建物の土台の間に(ゴム板と鋼板を交互に重ねて接着させた)積層ゴムやダンパーなどの免震装置を設置することで、建物に伝わる揺れそのものを少なくしようとするものです。

一般的に、免震構造は耐震や制振(制震)構造よりもコストは一番かかりますが、建物へ与える損傷や揺れは一番小さくできる傾向があります。

また、ゴムではなく「エアー断震」といって地震発生時に空気(エアー)で住宅を15mmほど宙に浮かせて、ほぼ完全に揺れを逃がす「断震」というものもあるようです。

尚、制震や免震であっても建物が完全に揺れなくなるわけではなく、耐震に比べて揺れが少なくなるというものです。家具などの転倒防止対策は忘れず行うことが大切です。

地震から家族を守る要【家具の転倒防止】を見直そう

耐震基準の実態と今後のまとめ

耐震基準はあくまでも建築基準法で定められた最低限の基準であり、実際にどのように施工されたのかはまた別問題です。

新耐震基準が適用された1981年6月以降に建てられた住宅であっても、その通りに建てられていない場合もあります。古い物件であっても、当時の旧耐震基準を大きく上回る耐震性を有する建物に仕上げたものもあります。

特に木造2階戸建ては構造計算も義務付けられていません。自宅の耐震性能に不安があれば、耐震診断を実施し必要に応じて耐震補強を行うことが一番確実です。

今後は、繰り返し起こる災害に対する「耐震」や、振動を吸収したり逃がしたりする「制震」・「免震」も普及していくでしょう。安心・安全・快適な住宅に住みましょう!

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