住み継ぐライフスタイルの実現へ向け、国は既存住宅の流通を拡大を推進

既存住宅(中古住宅)の流通は、欧米諸国の約70~90%に対して、日本は約15%程度と極めて低い水準に留まります。

ただでさえ、余った土地に新築が建てられ空き家が増え続ける中、優良な中古住宅を活用する「フローからストック」の方針へとシフトしているのです。

超高齢社会の到来を迎え、国としても、ライフステージにあわせて住み替える「住み継ぐ」住まい方などを推進しようとしています。

その中で、中古住宅市場を拡大させることが至上命題となっています。

中古住宅は、建物品質やトラブル時に不安や懸念がある。安心な取引の整備が急務

一方で、中古住宅に対する不安が根強くあります。実際に既存住宅の中には、品質の悪いものも良質なものも玉石混交です。

それらを選別する仕組みが整っていなかったため「悪い家をつかまされるのではないか」という疑心暗鬼があるのです。

金融機関も、築20年程度経過した木造住宅は建物の価値を一律にゼロとして「土地値のみ評価」することが当たり前に行われてきました。

さらに、新築住宅であればそれを建築するのはほとんどの場合業者ですが、中古不動産は所有者が個人であることが多いものです。

つまり、既存建物の多くが個人間売買となっており、一般消費者である売主に対して厳しい瑕疵担保の責任を負わせられない事情もあります。

買主側からみれば「物件に大きな欠陥があっても救済されないかもしれない」という不安や懸念があるのです。

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宅建業法が改正!「インスペクション」を促進して安全な取引環境を整備

そこで、安全な不動産取引環境の整備を図り、中古住宅の流通市場を活性化するためにも「ホームインスペクション」(建物状況調査・住宅診断)の活用を促すことを目玉とした改正宅建業法が成立しました。

今回の宅地建物取引業法の改正において、以下の大きな三本柱で既存住宅の売買を安心して行える市場環境を整備しています。

【Ⅰ】既存建物取引時の情報提供の充実
【Ⅱ】不動産取引により損害を被った消費者の確実な救済
【Ⅲ】宅地建物取引業者の団体による研修

国は2025年までに達成する数値目標も定めており、既存住宅流通の市場規模を倍増させ(2013年の4兆円→8兆円)、さらに既存住宅売買瑕疵保険の加入割合を4倍にする(2014年の5%→20%)こととしています。

この法案は、2016年2月26日に「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、5月27日に国会で可決・成立、6月3日に公布されたものです。

2016年12月20日には、第190回国会で成立した「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」の施行期日を定める政令が閣議決定され、この改正された法律の実施(施行)時期が具体的に決まりました。

【Ⅰ】重説でインスペクションの概要説明、売買契約で建物状況を相互確認

【Ⅰ】の情報提供の充実が一番の目玉といえ、これは不動産取引の専門家(プロ)である宅建業者(不動産会社)が建物の状況を調査する「インスペクション」の活用を促すようにするものです。

具体的には、不動産取引において2018年4月1日から大きく3つの変化があります。

中古物件(既存建物)を取引する場合、宅地建物取引業者(不動産仲介業者など)に対して以下が義務付けられるのです。

【インスペクションに関する3つの変化(2018年4月1日~)】

  1. 媒介契約においてインスペクションを実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
  2. 買主などに対してインスペクション結果の概要などを③重要事項説明
  3. ④売買契約などの成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付

①媒介契約時に住宅診断業者を斡旋できるか示し、依頼に応じて②インスペクション

1について、不動産を売却または購入したい個人と不動産仲介業者(宅建業者)が「①媒介契約」を結ぶ際、不動産業者がインスペクションを実施する業者をあっせん(紹介などを行い、間に入ってうまく取り持つこと)できるかどうかを示します。

そして、売主または買主がインスペクションを実施したいという意向であれば、それに応じてあっせんし、専門業者が売主の住宅の「②インスペクション」を実施します。

媒介契約を結ぶ際に、インスペクションの項目が必ず盛り込まれるようになることで消費者に住宅診断をすることができることが周知される効果があります。

また、あっせんができない宅建業者は媒介契約そのものを取りづらくなると考えられ、不動産業界全体としてインスペクションに取り組んでいくことでしょう。

③重説時に建物を検査済みか記載。インスペクション済みならその内容を説明

2について、仲介業者が買主に対して「③重要事項説明」を行う際に、検査済みかどうかを記載します。インスペクションを実施済みの場合はその検査内容を説明することが義務付けられます。

実際には、建物状況の検査結果を事前に説明をして、それを基に売買価格の調整などが実施されることが予想されます。建物の質が詳しく理解でき、それを基に購入判断ができるため、より実態に合わせた取引が行われることが期待されます。

また、建物状況調査は、既存住宅売買瑕疵保険に加入する際に行われる場合と同じ方法を取り、基礎・壁・柱など検査対象も同様とすることとしています。

これは、中古住宅に瑕疵があった場合にそれを補修する費用を補償する「既存住宅売買瑕疵保険」の加入を普及させるものであり、購入後に万が一のことがあっても安心な取引が実現するよう促しているのです。

瑕疵保険は加入前に検査に合格する必要があります。インスペクションによって不具合が見つかった場合にも、それを補修して再検査に合格すれば保険に加入できるため、良質な中古住宅を生み出すインセンティブにもなります。

④売買契約時に売主・買主が建物の状況をお互いに確認。トラブルを未然に防ぐ

3について、中古住宅の売買契約を締結する際に、売主と買主が(基礎や外壁など)建物の構造耐力上主要な部分等の状況などの現況について相互に確認します。

その内容を仲介業者(宅建業者)が売主および買主に書面(第37条書面)で交付するのです。

お互いが現在の状況を確認・納得して物件を引き渡すことで、その後に判明した建物の瑕疵に関わるトラブルを未然に防ぐ効果が期待されます。

このように、単にインスペクション(建物状況調査)を実施して建物の安全性を検証するのみならず、将来瑕疵が見つかった際の保険やトラブル防止効果など、多くのメリットが生まれることが期待される制度なのです。

【Ⅱ】不動産のプロである宅建業者は、損害があっても保証金を使えない

【Ⅱ】の消費者の救済と【Ⅲ】の宅建業者の研修については2017年4月1日から具体的に以下が施行されます。

  • 営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者を除外(【Ⅱ】)
  • 従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務など(【Ⅲ】)

【Ⅱ】について、宅建業者は、不動産取引において損害を生じさせた場合に支払わなければならない損害賠償や違約金などに備え、あらかじめ保証金を供託しておきます。

具体的には、本店は1,000万円・支店1店舗につき500万円の「営業保証金」を供託するか、(国土交通大臣認可の公益法人である)宅地建物取引業保証協会の社員(会員)になって、本店60万円・支店1店舗につき30万円の 「弁済業務保証金分担金」 を納付しなければ営業できません。

つまり、これは保険へ加入するようなもので、万が一に備えおカネをプールしておくのです。多額の取引である不動産売買の安定性を保つもので「弁済業務保証金制度」などと呼ばれます。

売主・買主といった取引当事者を保護するための制度ですが、少なからず個人の消費者より宅建業者が優先されて救済される事例もあったため、今後は不動産取引のプロである業者を保護しないこととしました。

個人消費者より先に保証金を使う事態が散見。宅建業者は自己責任での取引へ

例えばある不動産会社Aが複数の案件で損害を生じさせてしまい、債権を持つ(損害賠償を請求できる)当事者が宅建業者Bと個人Cであるとしましょう。

この場合、この制度に詳しい宅建業者Bが先に申請を行って保証金を使われてしまっては、一般の個人消費者であるCを救済できなくなります。

この制度は、ある種早い者勝ちの性質があり(複数回保証金を利用するためには、宅建業者Aが供託金を納めなおす必要があります)、宅建業者同士の取引を優先されては個人の方が守られません。

ですので、今後は宅建業者(不動産会社)を救済の対象から外し、個人の救済を優先しようとするものです。

業者都合でいち早く還付請求がなされることがなく、個人のお客様の為だけにおカネを使うよう、弁済業務保証金および営業保証金を確実に確保しようとするものです。業者間取引は、お互いプロなのだから自己責任でやってください、という言い方もできます。

尚、宅建業者が還付を請求できなくなったことに伴い、営業保証金の供託所等に関する重要事項説明(宅建業法第35条の2)の規定は、宅建業者間の取引については説明不要になりました。

【Ⅲ】業界団体が不動産従業者へ体系的な研修を実施、能力を底上げ

【Ⅲ】について、業界全体で、不動産取引に関わる人の質を上げていこうとするものです。

具体的には、宅地建物取引業保証協会は宅地建物取引業の事業者団体(不動産会社の団体)に対して、研修の実施に要する費用の助成が可能となり、事業者団体は宅地建物取引士などに対して体系的な研修を実施するよう努力することが求められます。

これは、消費者利益を保護するという考えの下、宅建士などの能力や資質を維持向上させる取り組みを、個別の会社単位ではなく、業界団体全体で取り組んでいこうとするものです。

個別企業では教育に費やすコストも、研修内容にもバラツキがあるため、団体として組織的に統一した教育の充実に加え、保証協会からの費用助成を可能にしたものです。

これによって、企業側からすれば、研修費用の低減などによって研修を受けられる受講者が多くなります。

さらに、研修内容も基本的な取引知識から、税制やコンプライアンスに至るまで、実務ポイント抑えたより充実したものになることが期待されます。

【重説】書類の保存状況を明確化。買主が宅建業者の場合は口頭省略可に

今回の法改正において、一番の大きな変更点はインスペクションの活用を促進するものですが、その他にも取引内容が変更される内容が含まれています(2017年4月より施行)。

まず、宅建士による重要事項説明において、以下のような書類の保存の有無を明らかにすることとなります。これらはどれも建物の状態を推し量るために必要な重要書類です。

  • 建築基準法令に適合していることを証明する書類
  • 新耐震基準への適合性を証明する書類
  • 新築時および増改築時に作成された設計図書類
  • 新築時以降に行われた調査点検に関する実施報告書類

これらがきちんと保存されているかどうかを明らかにしなければならなくなることで、売主としても保管する意識が高まるでしょう。もし書類がないとなれば、売り逃がしたり価格交渉されるかもしれません。

買主が不動産を購入して数年後に「あの書類がない!」と気づいても、現状ではあらためて検査したり設計図を作り直さなければなりません。

これを契約前の重要事項説明で確認することでより安全安心な不動産取引につなげるものともいえます。

宅建業者が不動産を購入する場合には重要事項説明は書面のみでOKに

重要事項説明は、宅建士が買主に対して口頭かつ書面で行う説明です。

この買主が宅建業者(不動産会社)である場合、口頭での説明を省略して書面の交付のみでも構わないこととなりました。

不動産のプロが購入するのだから、口頭での説明ではなく書面をみて判断できるだろうということです。

「囲い込み」対策も。買付申し込みなどはスグに依頼者へ報告!

囲い込みをなくす取り組みとして、不動産会社に新たな義務も課されました。

具体的には、媒介契約を締結した宅建業者(不動産会社)は、その物件に対して買付申込書や売渡承諾書を受け取った場合、すぐに(遅滞なく)依頼者(売主または買主)に報告しなければならないことも定められたのです。

媒介契約は、買主と客付け仲介業者、売主と元付仲介業者それぞれで結びますが、不動産取引の実務では、買主と不動産会社が媒介契約を結ぶのは契約直前など形式的なものが少なくありません。

一方で、売主が「自分の不動産を売却したい」という場合には、依頼された元付仲介業者が売却活動に入る前に媒介契約を結ぶことが多いものです。今回の法改正で大きな影響を受けるのは売主側だと考えられます。

今回の法改正の背景には、売主側の仲介業者による「囲い込み」が社会問題化したことがあります。売ることを依頼されている物件を「買いたい」という購入候補者が現れればすぐに売主に報告することを当たり前として行うよう明確に規定したのです。

仲介会社は売主と買主の間に入ってスムースな取引を成立させる役目を負うものです。取引を阻害することのないよう、引き続き健全な取引環境が整備されていくことを期待します。

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改正宅建業法のまとめ

今回の宅建業法の改正により、建物の状況がわかる手段であるインスペクションが使われる場面が増えていくと予想されます。

また、宅建業者は不動産のプロとしてより大きな責任を課される改正がなされたことと同時に、消費者にとって安心して不動産取引を行えるよう体系的な研修によって能力向上に努めることになります。

つまり、今後は不動産会社(宅建業者)の役割がますます大きくなります。エージェントたる使命を帯びてきているともいえるでしょう。これまでのモノ売りからエージェントサービスの転換期ともいえ、中古住宅市場の活性化にむけ安心な取引環境が醸成されることを期待します。

ただ、今回のインスペクション活用法ともいえる改正宅建業法にも懸念点や注意点があります。次はそれをみていきましょう。

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